2020 May. 24

ビジネスの優しさ

最初の入院で4ヶ月もベッドで寝ているといると、親しくなるナースさんも増えてくる。入院当初は入代立ち代わりやってくるナースさんの顔と名前が一致せず(マスクしてるし…)、何となくあたふたしていたような気がする。次第に名と顔が一致するようになり、好みと苦手のナースさんが見事なまでにはっきり分類されるようになった。

苦手なナースさんには共通点があり、一言で言うなら「ガサツ」。病室で大声で喋るデリカシーのなさには辟易する。耳の遠い年寄りの患者が多いというのは分かるのだが、個室ならともかく4人部屋で各々の患者にはもっと静かな声で喋りなさい。他人の情報は別に知りたくないんだから…。

他人が見れば、好みと苦手がはっきり分かるほど接し方に差があるようだ。日勤と夜勤のナースさんがいるが、誰が担当してくれるかによって、その日の精神状態が左右された。指名制だといいのに…と、真剣に思ったほどだ。

指名制だといいのに…
画像はイメージです

長い時間患者でいると、ナースさんの目利きが達者になる。ナースが天職というタイプの子は先天的にナース向きのポテンシャルを持ち合わせている。表現は悪いが「オヤジ転がし」の巧い子は、多分良いナースになれると思う。この天賦は年齢には関係がないようで、若いナースさんでも「ほぉ〜」と思えるほど上手に患者を取り扱う。

ナースさんの好き嫌いは別にして、ナースの仕事はホント大変な仕事だと思う。最近はコロナの影響で医療従事者の苦難がクローズアップされているが、そんな特別なケースでなくても、多くの入院患者を扱っている病棟ナースの日々の業務はかなり過酷なものであることは間違いない。長い間お世話になっただけに頭の下がる思いである。

弱っているときには、仕事ということは分かっていてもナースさんに優しくされるとバカな男の多くは勘違いするものである。ボクもその中の1人であることは言うまでもない。今までに入院したこともなく、ナースさんの優しさには当然の如く免疫はなく、ボクは好かれている…と勝手に思い込む能天気さは癌患者とはいえ健在だった。

ナースさんに優しくされるとバカな男の多くは勘違いする
画像はイメージです

1度退院し、手術前に外来診察を受診したとき、入院していた病棟のナースステーションに挨拶に行った。相変わらず忙しそうにしているナースさんたち。なかなかボクの存在に気付いてくれないもどかしさ。病室で横たわっていたヨレヨレの患者姿とは違い、チョイとシャレた格好をしたジジイとのギャップに戸惑っているのだろうか…。

やっとナースさんの1人がボクに気付く。軽く会釈するだけ…オイオイ、久々の再会を祝してハグをしてくれるとまでは思っていないけど、もっと何かあるでしょう。あれだけ優しかったオネエサン方がボクを無視かよ。

バカな男はここでやっと気が付くのだった。あの優しさはビジネスだったのか…、そりゃ公私混同しないよなぁ〜、好かれようと良い患者でいようというコンセプトで入院していたけど、所詮は老い先短いくたびれたジジイ、仕事だから優しく接してくれているに過ぎない。冷静に考えれば分かりそうなものを、優しさと愛に飢えていた哀れなジジイには抗うすべがない。還暦の半ばになってビジネスの優しさを知ることになるなんて…。あ〜熱が出そうだ。

取り合えず、ビジネスの優しさを知ったことで手術のために再入院したときは精神的にチョイと楽であった。仲の良かったナースさんに「どうせこの優しさはビジネスやろ」と言うと、「分かっちゃった」と屈託のない笑顔で返答されたときは、悔しいけれど次の言葉が出なかった。まったくオヤジ転がしの秘技に弄ばれた可哀想なジジイの物語である。

余談ながら、噂には聞いていたが、ICUのナースさんはドSだということは本当だった。12時間に及ぶ手術が終わり、ICUに運ばれ、目覚めたボクに信じられない言葉を投げかける。「さぁ立ち上がって、歩きましょう」って、おい、大手術でお腹の中の臓器をガサッと取られたばっかりやでぇ…そんなにすぐには動けません…「大丈夫、さ、頑張って」って、ニヤリと笑い無理やり身体を起こそうとするではないか。(助けてくれ〜)と心の中で叫んだことは言うまでもない。

 


 
 
 
<< Back Next >>
 
 
pagetop